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土蜘蛛紀行 筑後編
其之壱、山門─ハ、女山神籠石(上)
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狭山田女:結構急な山道が続くねえ。道はきちんと整備されてるけど。
大山田女:ええ、もう少し我慢して登りましょう。
狭山田女:そういやさっきから、左側に石垣みたいなのがあるけど。

大山田女:実はこれこそが、山門最大の古代遺跡、女山神籠石(ぞやまこうごいし)なのです。私達は既にその中に入っているのですよ。
狭山田女:えっ、これが?中世のお城の石垣とかじゃないんだね。もっと古い時代のものなんだ。凄いよ、ず~っと続いている。古代の石垣なんだね。おっ、あそこに案内があるよ。

大山田女:神籠石というのは、ここに書いてある通り、山の山頂や中腹に、方形に切った石を積み、数キロに渡って並べたものです。特に北部九州に多いのですが、中国地方にもあります。白村江敗戦後の「緊急事態」に作られた古代山城によく似ているのですが、記録にないので、何の為の施設なのかは、はっきりとは分かっていません。

狭山田女:こっちにも案内があるけど、七世紀頃の山城ってのが有力みたいだね。さっきの案内には、寸法からしてもその時代だろう、て書いてあった。
大山田女:「唐尺」ですか。しかしそれより前の時代の長さの単位でも設計が可能だという事も分かっています。また用途に関しても、全ての神籠石を山城だと断定する証拠もないのです。

狭山田女:神籠石ごとに結構バラバラって事かな。
大山田女:ええ、そもそも日本書紀や続日本紀の記録にない、古代山城に似たものを「神籠石」と総称しているだけで、これらが全て同じものなのかどうかも分からないのですよ。山城としては少々無理のあるものもありますからね。全て一括りにしている事自体、間違いかもしれないのです。

狭山田女:うわあ、本当にどこまでも続いてるなあ……。なるほど、それで山城説と霊域説があるんだね。
大山田女:女山の特徴としては、列石内に多数の古墳がある事と、列石内から祭祀用の銅矛が出土している事です。この銅矛は二~三世紀のもので、卑弥呼の時代のものなのですよ。

狭山田女:ええっ、卑弥呼とも関係ありそうなの。まあ、九州で一番有力な邪馬台国の候補地にある訳だけど……。そういや女山って名前も気になるね。麓には「女王塚」もあるしさ。
大山田女:女山というのは「女王山」の略ではないかという説もあるそうですからね。少なくとも、卑弥呼と同時代に、この山で祭祀が行われていたのは確かです。

狭山田女:銅矛があるんだからねえ。だったらここは山城じゃなくて霊域なのかな。
大山田女:霊域だった場所が後に山城として使われたという可能性もありますけどね。はじめから両者を兼ねたものなのかもしれませんし。祭祀を行う者が、同時に戦う者である事もありますからね。この地に伝わる土蜘蛛のように……。

狭山田女:田油津媛さんか!そっか、この遺跡は、もしかしたら田油津媛さんと関係あるかもしれないんだ。卑弥呼の先代女王とか、卑弥呼自身だっていう説があるくらいだからね。なんたって麓の「女王塚」の主な訳だし。
大山田女:そうなのです。ここは田油津媛さんが祭祀を行う神殿で、かつ砦だったかもしれないのです。沖縄の城(ぐすく)のように、城郭かつ聖域という例もありますからね。山門が邪馬台国かどうかは分かりませんし、田油津媛さんと卑弥呼の関係ははっきりしませんが、女山神籠石と田油津媛さんとの関係は、少なくとも卑弥呼や邪馬台国よりは、深いものであるはずです。日本書紀に「山門」で討たれたと書かれている人物は、女性シャーマンを意味する名を持つ、田油津媛さんしかいませんからね。
狭山田女:この地で戦っていて、なおかつここから出てきた銅矛を祭祀に使った人は、田油津媛さんくらいしかいないって事だね。あとは、多分田油津媛さんと同じ人を指してるんじゃないかっていう、地元に伝わる葛築目(クズチメ)さんくらいか。同じ「女王塚」の主だけど。
大山田女:田油津媛さんを討ったという神功皇后の可能性もありますが、いかに祭祀と戦闘の両方を行ったされる彼女でも、山門で祭祀を行ったとまでは書いてありませんからね。土着勢力の田油津媛さんや葛築目さん以上に、この神籠石と関係の深い人物はいないでしょう。二人は同じ人物か、少なくとも血縁関係にはあったはずです。
狭山田女:なるほど~。わざわざこの山に登ったのにはそういう意味があったんだね。ところであたし達の故郷にも、「神籠石」って呼ばれてる巨石があるけど、あれはまた違うのかな?肥前での旅の記録に書いてある。
大山田女:あちらは「神様を守る石」という意味でしたね。「神籠石」とは、本来はそういう意味の言葉なのかもしれません。「神籠石」というのは、ここからそう遠くない、高良(こうら)山のものが古くからそう呼ばれていた事から、同じようなものの総称として使われているものですので。漢字も当て字で、他に神護石、皮籠石、交合石、皇后石などとも書き、本当の意味は分かっていないのですよ。一方、高良山は、高良大社の神域そのものですからね。宗教的な意味を持つ言葉ではあると思います。

狭山田女:なるほど~。おっ、いつの間にか、かなり山頂に近付いて来たね。折角だから山頂へ登ってみようか。
大山田女:ええ、そうしましょう。山門の地を見下ろす事もできるはずです。



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