通りの松の木

松並木がありました
昔からありました
いつから生えているのか
だれにもわかりません

太陽があつい日でした
通りを行く人たちは
全身から涙を流して
溶けてしまいそうでした
そこに大きな深緑の陰がありました
その陰は大きな手を広げて言いました
かわいそうに、ここでお休みなさい
彼の仲間たちも
やさしくささやきあいました
人々は
大きな黒い手と
やさしい緑の声に導かれるままに
彼たちの
人がどんなに大手を広げて抱きかかえても
とても両手が届きそうにない一本足に
もたれかかって休みました
人々は
深緑の陰たちと
お話をしました
陰たちも楽しそうでした
ある太陽のあつい
昔の日のことでした

月がさびしい夜でした
よたよたと歩く旅人は
目は地面の底を見ていて
沈んでしまいそうでした
そこに大きな深緑の影がありました
その影はそっと手をのべて言いました
かわいそうに、ここでお休みなさい
彼の仲間たちも
やさしくささやきあいました
旅人は
長い長い黒い腕と
しずかな緑の息に招かれるままに
彼たちの
人がどんなに大手を広げて抱きかかえても
やっぱり両手が届きそうにない一本足に
もたれかかって休みました
旅人は
深緑の影たちと
眠って夢を見ました
影たちもうれしそうでした
ある月のさびしい
昔の夜のことでした

それからいくつもの時が
通り過ぎていきました

そして今──
暑さに苦しみながら一生懸命歩く人々や
孤独にさまよう旅人もいなくなりました
クーラーのきいた家々があり
車たちが無言で通り過ぎます
──もとあった陰──影たちをおしのけ
つぶされおしのけられ
つまりつまってぎしぎしと。
ただ一番大きかった蔭だけは
今も残されています
でも、だれも見ようともしないのです

大きな深緑の蔭は
黒い手を広げて
声も上げずに
泣いています


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